創業200年以上
堺打刃物と共に歩む老舗の誇り
記者からのおすすめポイント
和泉利器製作所さんは、600年もの歴史を誇る「堺打刃物」の中でも、創業から200年以上続く老舗中の老舗。しかし、老舗というブランドに胡坐をかくのではなく、「どんな相談も親身になって対応する」のが、同社の培ってきたスタイル。その姿勢から、私たちが耳にしたこともある著名な料理人たちにも頼りにされ、映画、テレビ番組の制作現場でもその名を知られていると言います。
今回のファクトリズムでは、同社をはじめ堺打刃物の現場から合計3社が参加。それぞれ異なる魅力をたっぷり味わってください。
どんなものを作ってる会社?
私たち和泉利器製作所は『堺刀司』の名で、料理を愛し、料理を楽しむための道具を提供しています。和庖丁をはじめとした様々な料理庖丁、鍋、料理ハサミ、そしてお客様からの要望から開発した爪切りも。それらすべてに、創業以来培ってきたこだわりが詰まっています。この道45年以上の匠をはじめ、熟練されたスタッフたちの技もご覧いただけます。ファクトリズムでは、柄をたたくコンコンという音、白い煙と木の焦げる匂いなど(柄付け作業)、五感でモノづくりを体感してください。
ここがスゴイ!①
今年で創業217年。この永い歴史の中で、プロの料理人の方々と密なお付き合いをさせていただき、その要望に応えてきた実績があります。使い手様の要望に対し、例えば厨房の大きさによって、最適なものをご提案する。使う業態によって、必要な庖丁の種類や、柄の素材も提案する。そして、調理師学校では庖丁の扱い方や研ぎ方の講習を行う。こういった、知識と実績を活かした提案やサポート体制が、当社ならではの特徴です。また、当社には膨大な量と種類の柄や刃といった半製品がストックされており、あらゆるニーズの包丁に対応することが可能。使う人に合った庖丁を具現化することができるのです。
著名な料理人からのご指名も多く、そのお一人お一人から、庖丁をお求めになるときのみならず、アフターケアなどのサポートも「庖丁のことなら堺刀司に頼めば大丈夫」という厚い信頼をいただいています。
ここがスゴイ!②
当社の特徴の一つが、映画やドラマなど制作現場にも調理器具を提供しているということ。料理番組で有名俳優が堺刀司の庖丁を使用したり、歴史系の映画で使用されたりと、日常以外のシーンでも堺刀司の調理器具が求められています。マニアックなところで言うと、人気時代劇小説の映画製作で「明治・大正時代の牛刀はありませんか?」という依頼も。そういった歴史ものの場合は、制作側と時代考証なども踏まえながら、よりリアルな庖丁をご用意しています。そしてここでも「庖丁のことなら堺刀司に相談しよう」と頼っていただけることが私たちの誇りと実績の証です。
自慢したいプロダクトや技術
第11代帝国ホテル料理長、帝国ホテル料理顧問を歴任された村上信夫氏からの要望で製作した庖丁は、アメリカのフォード大統領が来日された際の料理に使用されました。「もっと “長切れ”する庖丁を」とご相談を受け、形は両刃の洋庖丁ですが、和庖丁の製法で製造した庖丁を製作。それによって、大統領来日の会食も万事上手くいったというエピソードがあります。「長切れ」とは、庖丁を研いだ後、どれだけ切れ味が長持ちするかということ。
クリビアックサーモン(パイ生地でサーモンを包んだ料理)を切り分けるとき、外側のパイと、内側の柔らかいサーモンを切り分けるのは、崩れやすく難しいのですが、村上信夫氏からは、『普通ですと人におさえてもらい切らないと、崩れてしまうが、堺刀司の庖丁だとその必要もなく切った後が分からないくらいに切り口がきれいなんです』『ローストビーフ60本切っても切れ味が変わりません。普通の庖丁なら2本切ったら研がなければなりません』『良い庖丁は料理人の宝です、その庖丁とめぐりあえるは、料理人にとって幸せなことである』と言っていただきました、そして堺刀司の庖丁に絶大な信頼を寄せていただいたのです。その庖丁は今でも帝国ホテルの料理部に飾られています。
モノづくりの歴史・ターニングポイント
創業1805年。気が遠くなるような長い年月を、ただただ粛々と、庖丁と共に歩んできました。その中で、お客様からの相談を親身になって受け続けてきたことが、今の信頼につながっていると感じています。その相談の中には、他社の庖丁についての相談などもあります。それをブランドや和庖丁、洋庖丁関係なくフラットな視点でお答えしていることも、私たちを頼っていただいている理由の一つ。その結果、一般の皆さんもご存じのような有名なプロの料理人の方々が、当社のブランド『堺刀司』の庖丁を愛用していただいているのです。さらに、そういったお客様が、また他のお客様をご紹介していただく。そのご紹介も同じように親身になって対応していったことで、何十年、何百年と、リピーターを生みながら継続しているのです。
これからチャレンジしたいこと
これからも粛々と庖丁と歩んでいくことに変わりはありませんが、今回ファクトリズムに参加したのは、初の試み。若手が中心となって進めていますので、チャレンジと言ってもいいかもしれませんね。
偶然ですが、この1年の間に改装を行い、庖丁をディスプレイしている場所から作業場が見えるようになりました。堺の庖丁がインバウンドやメディアなどで有名となり、遠方からもお客様が来店されるようになったんです。やはりどうせ改装するなら気持ち良く見てもらいたいと、現在のような空間となりました。
また、ファクトリズムでは、様々な企業とのつながりもつくっていきたいと考えています。現在も料理の庖丁だけでなく、工業用のゴムを切るハサミや細工などに使う印刀なども提供しています。企業同士、得意を組み合わせ、両社のプラスになるようなことにチャレンジしていきたいですね。
会社を一言で表すと?
“使う人が見えている会社”。それが堺刀司です。直接ご依頼を受けるプロの料理人の方々、調理師学校、そして一般のお客様が購入できる百貨店も当社のスタッフが対応しています。ですから、例えば一般のお客様が庖丁を購入したいということでしたら、まずお客様のニーズをお伺いし、では「この庖丁が最適です」とご提案できる。つまり、お客様と直接つながりがあるからこそ、良い商品を提案でき、サポート体制もしっかり活用できる。また、お客様からいただいた声も、鍛冶や研ぎの現場に伝え、さらに良いものにつなげることができています。
つくり手の想い・伝えたいこと
庖丁は、使ってもらってなんぼ。飾りではないので、普段から使っていただきたい。私たちが調理師学校などで、授業をするときによくお話しすることですが、「食」という字は「人を良くする」と書きます。そして、「美味しい」という言葉は、「美」と「味」の二つがあって成り立っていること。これを成り立たせるためには、美しい盛り付けができる庖丁が大事になってくる。すると、切れる庖丁を維持しなくてはならなくなる。そういったことを常に考えながら使ってほしい。そのために私たちは、長く切れる庖丁を提供し、使う側もそれを維持できるようしていただきたいですね。もちろん、研ぎ方などわからないことは気軽に聞いてください。使い手からたくさん相談されることが、私たちの大きな特徴ですから。